「薪ストーブを入れるなら住まいを建て替えるときに」と考えている方は多いのではないでしょうか。その理由は、現在暮らしている家だと薪ストーブが雰囲気に合わない、薪ストーブを設置するためのスペースが確保しにくいなどさまざまです。新築のタイミングなら、理想的な薪ストーブのある家に暮らすことができます。また、建物の断熱性能も向上したので、空間の作り方によっては薪ストーブで家全体を暖めることもできます。
理想的な間取りを実現するために
新しい住まいを計画するとき、最初にそれまで思い描いていた外観デザインやインテリアデザイン、そして暮らしに便利な家具や器具、欲しくなったアイテムなどを、家の構想をまとめてくれる建築家や設計士、建設会社の営業マンに伝えて相談します。このとき、ほんの少しでも薪ストーブのことが頭をよぎったら、薪ストーブを入れたい気持ちがあることをはっきりと伝えておきましょう。結果的にその時に薪ストーブの採用がかなわなくても、やっぱり諦めきれなくて将来は設置したいと思ったとき、必ずそのことが役に立ちます。仮に将来にわたって薪ストーブを使わないことになっても、無駄なスペースになることもありません。
反対に全く薪ストーブを想定しない間取りにしてしまうと、融通が利かず、後で薪ストーブを設置することになってもリフォームが必要になってしまうこともあります。一番大切なのは、設計士が家の図面を描き始める前に、薪ストーブのプロに自分の理想に合った空間はどのように作ったらよいかを提案してもらうことです。少しでも薪ストーブの基礎知識が身についていれば、間取りの選び方を間違えることもなくなるでしょう。
薪ストーブを楽しむ、理想的な間取り
暮らしの中で薪ストーブを楽しんだり、便利に活用したりとさまざまなイメージが思い浮かぶでしょう。理想的な薪ストーブのある暮らしは、おおらかな空間を作ることによって実現しやすくなります。おおらかな空間で参考になるのは、古民家と言われるような昔の農家住宅です。断熱性能をあまり重視されなかった昭和後期や高度成長期の建物は、暖房効率やプライバシー確保といった理由から、部屋がたくさんの壁で細かく区切られる設計が大半で、暖房器具には局所暖房といわれる小さなガスストーブや灯油ストーブが使用されていました。けれども、住宅性能の向上した現代の建築なら古民家のような空間の広がりでも暖まりやすく、ファジーな使い勝手がとても便利です。例えば、台所と居間がひとつの繋がりをもっていれば、薪ストーブはクッキングにも威力を発揮して、楽しみ方もぐっと広がります。現代の技術で耐震性能が確保できるなら、壁を減らし、建具などで仕切りを自由に変えられるような、おおらかな間取りにするとよいでしょう。
薪ストーブを置く理想的な場所
多くの薪ストーブは、家族が集まる居間に設置されます。現代のリビングルームは単なる居間としてだけでなく、お客様をもてなしたり、シアターに変身したりとさまざまな用途で使用されます。そのために家具やオーディオを含めてあらゆるものが置かれていますが、熱を持つ薪ストーブの周りには何も置かないスペースを確保しておく必要があります。また、お客様にもゆったりとした場所でもてなし、くつろいでもらいたいので、リビングルームに薪ストーブを置く場合はできるだけ広くスペースをとるようにしましょう。
さらに、薪ストーブがあることによって動線も変わります。外にある薪小屋やラックから薪ストーブの横にあるウッドホルダーまで、重たい薪をいかに楽に短時間で障害物もなく運び込めるかも考えましょう。薪ストーブクッキングのため、キッチンで下ごしらえした食材を薪ストーブまで運び、できあがった料理を薪ストーブからダイニングテーブルまで運ぶとすれば、それぞれが近くにあると効率がよくなります。
薪ストーブの設置場所は、冬の間、大きな窓からお日様の光が入りやすく、暖まりやすい南側より、北側などの冷気が集まりやすい場所にすると、どこにいても同じような暖かさを感じることができます。
薪ストーブ1台で家全体を暖める場合
薪ストーブは、どこから見ても遮るもののない場所に設置して、赤外線(輻射熱)の通りを良くし、暖気の循環が均一になるようにすれば、家の中のどこにいても暖かさを均一に感じることができます。つまりお部屋の中心に置けば360度の全方位に熱が伝わりやすくなりますが、お部屋の使い勝手があまりよくなく、薪ストーブの背中を見て暮らすのは現実的ではないでしょう。
おすすめなのは、どこからでも眺められる壁の真ん中です。ここならストーブから見える180度の範囲に輻射熱(赤外線)が放射されるので、十分な暖かさを感じることができるでしょう。また、薪も置きやすく薪ストーブクッキングやお手入れがしやすいのも特長です。部屋の角は放熱の範囲が狭まるだけでなく、使い勝手も悪くお手入れもしにくいため、おすすめしません。
吹き抜け空間に薪ストーブがある場合
薪ストーブを設置するには吹き抜けのある空間にするのが理想だとイメージされています。一見すると煙突の熱も利用できるし、暖かな空気が家全体に行き渡ると思われがちですが、実際には2階に暖気が滞り、1階の足元が冷えてしまうなど、上下階の温度差が大きくなりがちです。有効と思われがちな煙突からの放熱も、ストーブから1mほどの高さまでで、それより高い部分は暖房効果を期待できません。
それでも吹き抜けの空間に薪ストーブを配置したいのなら、建物の中で自然な空気の循環ができるような空間設計とし、2階に溜まった暖気をシーリングファンやサーキュレーターで動かすことが大切です。吹き抜けから昇った暖気が、建物の反対側にある別の空間から降りてくると、冷気の滞りも解消されやすくなります。
おすすめなのは、吹き抜けでない場所に薪ストーブを配置することです。天井にぶつかった暖気は周辺を漂いながら広がっていきます。薪ストーブから上昇した暖気を天井で抑えることで1階は均一に暖まりやすく、2階には階段室をゆっくりと暖気が登っていくので、上下階の温度差も少なくなります。この計画は煙突の固定強度も確保しやすく耐震性能も向上し、たまりやすい埃のお掃除も簡単です。
土間に薪ストーブを入れる場合
最近は土間のある家も人気を集めています。土間は、土足で活動できる室内のこと。広めの土間であれば、バイクや自転車のメンテナンスをしたり、ガーデニングやDIYといったさまざまな趣味を楽しむことができるでしょう。もちろん土間に薪ストーブを置きたいという方も多くいます。というのも、薪の運び込みもしやすく、灰や薪の木っ端などの汚れも気にしなくてもよいからです。
土間に薪ストーブを入れるときに注意したいのが、その広さです。土間と床面との段差が大きい場合、土間が小さいと薪ストーブが埋もれたようになってしまい、薪ストーブの醍醐味である炎を見ることもできません。また、上がり框の部分に薪ストーブの熱が直にあたり危険です。そのため、土間はなるべく広めにとるか、または、上がり框の高さを低くする、もしくは床をフラットにするといった工夫が必要です。
遮熱対策は、土間に置く場合は直に置いてもかまいませんが、壁面の遮熱工事を忘れずに行いましょう。